死刑囚でしたが、死に至らずに精神病院へ送られることになった秀丸と入院患者たちとの触れ合いが痛みを含みつつ描かれます。
冒頭から、「えっこんなことがあるの?」と驚きでしたが、秀丸が生かされた意味があるわけなんだなと。
それがどんな風に表されるのかと興味深く見始めました。
「閉鎖病棟―それぞれの朝―」感想
次第に明かされる秀丸たちの胸をえぐられるような過去
秀丸のやってしまったことは許されませんが、その心情を思うと胸が痛くなります。
全く疑いもなく信じ切っていたからこそ、あのような行動になってしまったのか。
見るからにいい人そうな秀丸の、突き上げるような暗い衝動が一瞬にして引き出されてしかったことが、恐ろしくも悲しいです。
由紀の周りの大人たちには怒りを覚えますね。
守るべき人間になぜあんなひどいことができるのだろうと、嫌悪と恐ろしさでいっぱいになりました。
由紀をつらい目に遭わせた人間には怒りを通り越してあきれますね。
母親はいくら何でも娘に対しての配慮や愛情がなさすぎます。
母としてよりも女性として自分が幸せになろうと必死だったかもですが、それにしても娘のことをなんだと思っているのか。
本当なら安心できるはずの家庭で、由紀がどんなに追い詰められ、絶望した気持ちになっていたか。
中弥もつらかったでしょう。
中弥については詳しいことは分かりませんが、誰にも理解されず非常に苦しんできたんでしょうね。
もしかしたら、母だけは息子に対する愛情があったのかもしれないけれど。
確かに、周りの気持ちになってみれば、自分たちのことで精いっぱいで、血が繋がっていようと、むしろ繋がっているからこそ理解する余裕なんてないのかもしれません。
過去も現在もパニックになる中弥の姿に、自分ではどうしようもできない心の叫びを感じて胸がかき乱されます。
なぜこんなに苦しまなければいけないのか、本当につらさから抜け出す手立てはないのか?
由紀はショッキングな経験をしたけれど、異常があるとは思えないし、中弥も普段の姿はごく普通に見えるんですよね。
若い二人が世間から離れ、閉ざされた生活を余儀なくされる状況が痛ましいです。
本来なら、悩みがあっても楽しい生活だってあったかもしれないのに。
心から笑える毎日だって当たり前のように送れていたかもしれないのに。
由紀が徐々に秀丸や中弥と打ち解けていき、昭八も加わって仲良く出掛ける場面に、本来の自分を取り戻していくのかと見ていました。
なのに、由紀にまた恐ろしくひどいことが降りかかって、なぜこんなことにと悲しくて悔しい気持ちに。
隔離された場所だけど、少なくとも今までのような苦痛からは逃れられると思ったのに。
何の非もない由紀があまりにもかわいそうで、一体どうなってしまうのかと最後まで分かりませんでした。
何とか生きていてほしいと願わずにはいられません。
何としても幸せにならなければおかしいのではと。
秀丸が由紀のために復讐する場面は、秀丸が危険にさらされるのではとハラハラし、息詰まるようでした。
自分はどうなろうとかまわないとばかりに目的を果たした秀丸に圧倒されます。
あくまで冷静にやり遂げる秀丸が鬼気迫り、まるで別の人間が乗り移ったかのようでした。
結果、正直に言えばこうなるのも仕方ないという部分があるものの、何かザワザワするものも残るというか。
確かに秀丸が行動を起こさなければ、またいつか同じような悲劇が繰り返されたかもしれない。
そしてまた、秀丸は「生かされている」としか思えない流れに。
何か目に見えない大きな力が働いているのではと考えられるほどで、秀丸は生きる必要性のある人間ということですよね。
それからの中弥の変化には本当に驚き!
母親への愛情は分かるんですが、口にすることを実行するのは到底無理だと思われたのに。
秀丸に力を与えられたというのもあるだろうけど、中弥自身、自分を取り戻す勇気がもうとっくに備わっていたのだと思われます。
中弥と母が対面するまで、大丈夫なのか、中弥が傷つくことになるのではとドキドキしました。
母の中弥に対する愛情の気持ちが見えてホッとしました。
妹夫婦が言うような状態には見えませんでしたね。
ずっと中弥を待っていたのかと思うと、中弥の決断はこれで良かったんだとホッとしました。
しっかりと生活を始めている様子も見られて、驚くとともに安心して嬉しくもなりました。
中弥と秀丸を応援するような態度を見せる看護師・井波の存在が素敵
正しく優しい心を持つ人だと感じました。
中弥の妹夫婦の前で、きちんと中弥を理解している様子が、看護師としても人としても信頼できる人物だと思えます。
秀丸はどうなるのか、由紀はどうなったのか、終盤の展開に驚きと感動が押し寄せます。
由紀がおそらくは死に物狂いで努力し、強くあろうとし続けていたのだと思えて、心から安堵し、拍手を送りたい気持ちになりました。
負けないで頑張ったんだね、今も頑張っているんだねと声をかけたいくらいです。
秀丸の裁判で、必死に心情を訴える由紀の姿には胸を突かれます。
秀丸のことを思っているとしても、そこに立つまでにどんなに勇気が必要だったか。
自身の複雑で苦しい気持ち、秀丸への感謝と願い、一つ一つの言葉を一生懸命に全身で表す様子に、涙があふれるのを抑えられませんでした。
中弥が秀丸に呼びかける姿にも、熱いものがこみ上げます。
秀丸は、若い二人の姿を目にして、どんなにうれしかったことでしょう。
二人と話したい気持ちでいっぱいになったでしょう。
二人の再生への道を開かせたのは秀丸なんですよね。
諦めかけていたような人生が良い方向へ行くこんなにも素晴らしい出会い。
これからの人生は長いし、困難は避けられないとしても、中弥と由紀はきっと幸せを掴めると信じたいです。
ラスト、秀丸の沸き立つ気持ちを表すかのような場面に希望を感じた
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由紀の言葉がしっかりと響いていたのだろうし、秀丸自身、どこかに生きたい気持ちが残っていたのではないでしょうか。
難しいのかもしれませんが、やはりもう一度、笑顔で中弥や由紀と再会してほしいです。
見終わって、すがすがしさに包まれ、いつまでも余韻が残りました。
ベテランと若手の俳優陣の迫真の演技が光り、胸を打つ作品です。
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