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映画「ジョーカー」あらすじと考察。

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「ジョーカー」はトッド・フィリップス監督によって、2019年アメリカで製作されたサスペンススリラー。

ボブ・ケイン等3人のクリエイターたちが創り上げたキャラクターをもとに、フィリップス監督と脚本家のスコット・シルヴァーが122分のオリジナルシナリオを書き下ろしています。

「ハングオーバー!」や「GGアリン」などメガホンを取ったのは、コメディからドキュメンタリーまでの創作活動を続けている映画作家です。

第76回のヴェネチア国際映画祭ではワールドプレミア作品として上映されていて、最優秀賞作品賞にも輝きました。誰しもがしるマーベルコミックの名物悪役の、知られざる出生秘話を暴き出していく問題作に仕上がっています。

目次

「ジョーカー」という映画を見たくてうずうずしていました。

エマ

そのワケは、ホアキン・フェニックスが好きだからです。

実力派の彼が久しぶりに映画に登場すると知って、どんな役なのだろうと期待していました。

そして「ジョーカー」のポスターを見たとき、「WOWと、これは何がなんでも観なければいけない!」と決心したのです(ちょっと大げさですが)。

2020年のアカデミー主演男優賞並びに作曲賞を受賞した「ジョーカー」。

一見恐ろしいスリラー映画みたいですが、実は人間のダークな部分を掘り下げた意味深な作品です。

バットマン」に登場する悪名高いジョーカーの誕生秘話と聞いたとき、そのユニークな発想が素晴らしいと思いました。

「バットマン」はそんなに真剣に観た映画ではなく、わたしの中では単なる娯楽映画という位置付けでしかありませんでした。

その中の悪の主人公にフォーカスをあてて1つの映画にするとは、ハリウッドムービーによくありがちな、軽いノリのオカルト的なものだろうと思っていました。

ただ主演が大好きなホアキンなので、ひょっとすると違うアプローチなのかもしれないと予告編を見たら「え〜、これはニューヨークではないの!?」と以前訪れたことのある風景に期待感が一気にアップ。

何か不穏な期待感を醸し出す予告編に魅了されました。

「ジョーカー」あらすじ

アーサー・フレックはゴッサム・シティーで病弱な母親の面倒を見ながら、大道芸人として生計を立てていました。

幼い頃に脳と神経に損傷を負ったことがきっかけで、アーサーは突如として笑い出すという特異体質を抱えています。

7種類の投薬治療と市から派遣されたボランティアのカウンセリングを受けているが、一向に収まる気配がなく…。

勤務時間中に襲撃を受けたアーサーに、護身用のピストルを渡してくれたのは、日頃から仲の良かった同僚のランドルです。

この秘密の武器のせいで人が変わったように明るくなったアーサーは、コメディアンとして小さなバーのショーに出演します。

この時の映像がテレビ番組で取り上げられたことによって、「ジョーカー」と名付けられたピエロ姿の扮装が流行して市街地は大混乱へと包まれていくのでした。

「ジョーカー」のキャッチフレーズは「本当の悪は笑顔の中にある」

幼い頃から母親に「どんなときでも人々を笑顔で楽しませなさい。」と言われ続けてきたアーサーはコメディアンを生業にしていました。

ピエロのメイクを施し、人々に笑いを届けようとするけどいつも成功しません。

それどころか、世間から卑下されいじめられ、ニューヨークのゴミだめの中に放り投げられるような日々しかありません。

しかし心優しいアーサーは年老いた母親を介護しています。

薄暗いアパートの一室で彼の帰りを待つ母親は、アーサーだけが生き甲斐であり頼りです。

エマ

子供が親の介護をし、自分の人生を犠牲にしてしまうという現代の暗い問題が海外でもあるのだな、と思いました。

貧困にあえいでいる親子にとって明るい話題はなく、アーサーの唯一の楽しみは憧れの司会者マーレイ・フランクリンのテレビ番組を見ること。

いずれ彼の番組に出演することになるのですが、アーサーの妄想は現実をはるかに超えて危険な方向へ彼を導いていきます。

アーサーが世間から誤解され嫌われた理由の1つ「笑い病」

アーサーには「笑い病」という持病がありました。

エマ
特に緊張したときに突然高笑いが始まってしまい、マジな状況なのに相手を馬鹿にしたように高笑いしてしまうという奇怪な病。

自分の意思とは真逆の行動に、怒った相手から殴られるという悲劇に見舞われます。

本当にこんな病があるのかわかりませんが、アーサーの場合、「いつも笑っていなさい。」と言われ続けてきたことがプレッシャーになり、笑っていれば人々に愛されるという妄想が裏目に出たのかもしれません。

誰だって真面目な話をしているとき、相手が突然笑い出したら頭にくるものです。そんな病気があるのだと釈明しても、簡単には信じてもらえないでしょう。

でもわたしの個人的な感想ですが、「アーサーの笑い病は本当だったのか?」と映画の最後に思ってしまいました。

それは彼が大富豪の実業家トーマス・ウェインと会ったシーンでした。

アーサーの母親ペニーは、かつてウェイン家で働いていました。

若く美しかったペニーは、この屋敷の主人であるトーマスと男女の仲になり、アーサーを身ごもった….この衝撃的な事実を、母親ペニーの書いた手紙から知ってしまったのです。

ひどく興奮したアーサーは母親を問い詰め、母親の口からもこの事を聞きトーマスと対面します。

突然の不審な男の問いかけに、トーマスは当然否定します。

ペニーは単なる屋敷の使用人であり、彼女の精神は病んでいたとアーサーを突き放します。

興奮したアーサーは、持病の発作が始まりトーマスを目の前にして高笑いしトーマスに思い切り殴られてしまいます。

アーサーの発作は偶発的だったのか、それとも意図的ではなかったのか、とちょっと疑ってしまいました。

アーサーと母親に血のつながりはなかった

母親の妄想かトーマスの狂言か、そしてついにアーサーは母親の過去を知ってしまいます。

本当の生みの母親と信じていたペニーとは、実は血は繋がっておらず養子縁組であったと書かれた書類を目にしてしまうのです。

エマ
父親の存在を知らず、母親も誰なのか不明、自分がどこから来たヒトであるのか分からない、狂気がマックスに達したアーサー。

彼は、次々とアブノーマルな犯罪を犯してしまうのです。

「ジョーカー」のクライマックスは?

アーサーがついに憧れていたマーレイ・フランクリンのTV番組に生出演。

既に狂気と化したアーサーは、真っ赤なスーツに身を包み道化師のメイクでロバート・デニーロ扮するマーレイのゲストになります。

かつてのようなドギマギしたアーサーではなく、何者にも近寄りがたい不思議な自信に満ち溢れた姿でした。

怪しげな空気は人々を惹きつけ、そしてついにアーサーがマーレイを撃ち殺すというショッキングなシーンに!

わたしはてっきり、アーサーがその場で自分の頭をぶち抜き自殺するのではないかと思っていたので、予想を覆してくれました。

というか、さすが陳腐な展開ではなく、アーサーが化け物のような道化師に変化し、さらに手をつけられないような別物に様変わりしていく姿を恐ろしいくらいの迫力で表現していました。

これまでにないジョーカーを怪演

アーサー・フレック

冴えない日常生活に鬱屈とした想いを抱いている、主人公のアーサー・フレック役はホアキン・フェニックスです。

ポール・トーマス・アンダーソン監督作「ザ・マスター」での、第2次世界大戦を生き延びたアルコール依存性気味な兵士。

ウディ・アレン監督の2015年作「教授のおかしな妄想殺人」での、異常なほど思い込みが激しい哲学科の大学教授。

過去にもふとした一瞬から道を踏み外していく中年期の男性特有の悲哀感を体現してきましたが、今作での怪演には圧倒されます。

そんな孤独なアーサーにとっては心の拠り所となる、ヒロインのソフィー・デュモンドを演じているのはザジー・ビーツです。

アーサーのお気に入りのバラエティー番組の司会者、マレー・フランクリンにはロバート・デ・ニーロが扮していました。

退屈な現実の世界に捕らわれていたアーサーを導いていく役でもありジョーカーの名付け親でもある、物語のキーパーソンとして存在感を発揮しています。

空虚な大都会が舞台

正義のヒーローの王道を行くバットマンのホームグラウンドで有名な、ゴッサム・シティーが舞台です。

街の中を縦横無尽に駆け回っていくスーパーラットには、ガラパゴス諸島で独自の進化を遂げていく希少生物のような生命力がありました。

劣悪な衛生環境から生じた新種の伝染病のパンデミックや、ストリートギャングによる略奪や暴行事件は跡を絶ちません。

アーサーもお世話になっている福祉事業が近頃では縮小傾向にあるなど、厳しい財政状況を垣間見ることができます。

一般市民による市長への抗議デモが盛り上がっていくシーンには、いま現在のニューヨークを彷彿とさせるものがありました。

異色のダークヒーローを産み出す伏線の数々

アーサー・フレック

人気のアメコミヒーローのスピンオフシリーズでありながら、レイティングでは異例のR15指定を受けています。

過激な描写ばかりではなく、これまでのシリーズにも繋がる張り巡らされた伏線と深いメッセージが魅力的です。

「いつ如何なる時でも笑顔を忘れることなく、周りの人たちを楽しませなさい」、とはアーサーの母・ペニー・フレックの言葉が意味深でした。

そんな母親がかつてはお手伝いとして仕えていた、大富豪にして市長選挙に打って出ようとするトーマス・ウェインも重要な役どころです。

返事が来ないことに薄々気がつきながらも、ただひたすら手紙を書き続けているペニーの執念が予測不可能な事態を巻き起こしていきます。

劇中でさりげなく登場するトーマスの幼い息子の、「ブルース」というファーストネームにも注目してください。

ブラックピエロ企業

ピエロ

鏡に映し出された疲れ果てた自分の顔を眺めながら、黙々とペインティングをするアーサー・フレックが哀愁たっぷりでした。

メイクルームでは身体的なハンディキャップがある仕事仲間への悪意ある言葉が飛び交い、事務所では強欲な所長の給料天引きが横行しています。

ピエロ派遣プロダクションの入り口に掲げられている、「笑顔を忘れずに!」という空っぽなキャッチコピーが皮肉です。

日々の暮らしぶりは余りにも困窮を極めていて、コメディアンになるというアーサーの夢からはかけ離れています。

勤務時間が終わって帰宅してからも休む間も無く、寝たきりの母親の世話に追われているアーサーの毎日が息苦しいです。

悲劇の引き金

ピエロの仮面

地下鉄の車内で笑いの発作が止まらなくなったアーサーに対して、周りの乗客たちが注いでいる冷たい眼差しが印象的です。

今の時代に異質な存在を受け入れることが出来ずにあっさりと排除してしまう、不寛容な風潮や閉塞感について考えさせられました。

大手証券会社に務めていて勝ち組人生まっしぐらな、3人のサラリーマンからアーサーが受ける謂われのない暴力には憤りを覚えます。

列車が終着駅の9番街へ近づいてスピードを落としていくにつれて、車内の緊迫感と不吉なムードもいやが上にも高まっていました。

遂には溜まっていた不平不満を爆発させて、破滅への始まりの引き金に手をかけてしまうアーサーには胸が痛みます。

エレベーターでの接近から扉の向こうの破局

ストーリーの途中で、少しだけ彼に優しさと愛情をくれた女性の存在がありました。
同じアパートに住む住人の女性、ソフィー・デュモンド。

シングルマザーとして幾多の苦難に晒されながらも、明るさと希望を失うことのないに心温まります。

同じアパートの同じフロアに入居しているアーサーとは、エレベーター内で会話を交わしたことが急接近のきっかけです。

世間から疎外され続けてきて途方に暮れるアーサーに対しても、真正面から向き合っていき偏見を抱くこともありません。

ソフィーとの触れ合いを通して見違えるように生気を取り戻していき、遅すぎた青春時代と束の間のロマンスを謳歌するアーサーが微笑ましかったです。

共通する貧しい境遇から心を通わせたように見えましたが、やがてアーサーの狂気に気付き離れていってしまいます。

そんなアーサーが勇気を振り絞ってソフィーの部屋のドアを開けた時に、目の前に突き付けられる真実が衝撃的でした。

ソフィーの存在は、「愛」に飢えていたアーサーの人間らしい一面を表したのでしょう。

ですが、哀しいかなその愛も実らずにますます悲惨な事態を起こして行くのです。

まとめ

横たわるピエロ

これまでアーサーが積み重ねてきた時間の全てと、歩んできた多くの道のりが揺らいでいくクライマックスが圧巻です。

爆発的な熱狂的の渦にとり憑かれていく群衆に持ち上げられたアーサーが、遂にはカリスマ性あふれるジョーカーとなる瞬間を鮮やかに捉えています。

果たして何が真実で何が妄想だったなのか、答えが明示されないあやふやなままで閉じていくストーリーも忘れ難いです。

後にバットマンとなるあの男が、あどけない少年時代の姿でカメオ出演するサプライズまで用意されていました。

狂気は誰もが持っているものなのか、生まれた境遇や受けた愛情の有無で変わるのか、アーサーがもし違う境遇に育っていたらジョーカーにならずに済んだのか、貧困が不幸と狂気を生むのか、などなど多くの疑問を残したまま見終わりました。

人に笑いとジョークをもたらすはずのジョーカーが、実は世界で1番悲しく不幸な人であったと、そんなに簡単には締めくくれない物語。

「映画の中のお話です」とだけ言い切れない痛烈なパンチを食らった傑作でした。

もちろん大好きなホアキン・フェニックスの演技は衝撃的としか言いようがなく、アカデミー主演男優賞を獲得して本当に嬉しかったです。

ホアキン・フェニックスはもちろんのこと、シーザー・ロメロやジャック・ニコルソンを始めとする、懐かしの名優たちが演じたジョーカーに思い入れがある世代の方は是非みてください。

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