1996年封切りのアメリカ映画の「バードケージ」は今は亡きロビン・ウィリアムズと名優ネイサン・レインという2大スターの競演するコメディです。
二人の卓越したコメディアンとしてのセンスは、いま見ても色あせない輝きを放っています。
もともとは「ラ・カージュ・オ・フォール」というミュージカル作品を映画化したもので、なるほど、テンポの良いやりとりや、ドキドキハラハラしながら、笑い泣きしてしまうジェットコースターのような場面転換は舞台劇そのものです。
「バードケージ」あらすじ
ロビン・ウィリアムズがマイアミのゲイバー「バードケージ」のオーナー、アーモンドに扮して、ネイサン・レイン演じる「バードケージ」のスターであるアルバートと夫婦同然の生活を送っています。
二人はゲイカップルとして長年のパートナーであり、アーモンドが別れた妻との間にできた一人息子ヴァルを、一緒に育ててきました。
今や大学生となって下宿しているヴァルはキャンパスで出会った恋人と婚約したい、ついては彼女の両親と本人を連れてくる、と一時帰宅します。
問題は、彼女の父親が有名な保守派政治家なこと。
ゲイカップルの息子なんて認めるわけがない、親のせいで彼女との婚約を破棄されたくない、と頭を抱えるヴァルに、アーモンドは妙案を提案します。
ただ、それはアルバートにとっては屈辱的なことで、またもひと悶着起きてしまいます。
さらに、実際に彼女の両親が来てもトラブルが続いて、本人たちは大真面目なのですが、見ているこちらは抱腹絶倒、涙がちょちょぎれてたまらない、というストーリーです。
ロビン・ウィリアムズが絶妙
ロビン・ウィリアムズといえば、「いまを生きる」「ミセス・ダウト」「ジュマンジ」「グッドモーニングベトナム」と硬軟どちらのタッチの映画でも演じ分け、アカデミー賞にも4度ノミネートされたほどの演技派。
「グッド・ウィル・ハンティング」にてアカデミー助演男優賞を受賞しています。
シリアスな演技も胸に迫るものがありますが、コメディを演じさせれば彼にしかない味があり、その中でも一番好きなのがこの作品でのロビンです。
男らしさを見せようとして、いつもスキだらけな憎めないアーモンド。
オーナーとして、ゲイの仲間たちに威圧的に接したり、そのくせアルバートにはからっきし弱い。
息子は強く育てようとしながらも、結局は言いなりになってしまう。
世のお父さんと同じ、もろさと優しさが混在する難しい役を、魅力的に演じています。
ロビン・ウィリアムズの確かな演技力
名門ジュリアード音楽院の演劇科で演技を学び、スタンダップ・コメディでNYでいくつもの公演を成功させるなど、ぽっと出の俳優とは一線を画す実績に裏付けられています。
最後の公開映画となった「ナイト・ミュージアム」の将軍役まで、彼の演じた役に勇気づけられたり、泣かされたり、心を震わせてくれる演技は忘れられません。
この、アーモンド役も、はまり役の一つであることは間違いありません。
ネイサン・レイン
母親がわりのネイサン・レイン演じるアルバートも、また愛すべきゲイなのです。
ネイサン・レインが少し小太りであることを逆手にとって、「わたしのこと、醜いと思っているのね」と泣き崩れるところを、「そんなこと言ってないだろう、ハニー。何か欲しいもの買ってあげるから」とアーモンドに機嫌をとらせるところなんかも、世の女性にもどきっとするところがないでしょうか。
そのくらい、女形を上手に演じています。
話し方も、ちょっと女性らしい言葉遣いで、ネイサンがどれだけ真摯に役作りを行ったかがよくわかります。
ネイサン・レインといえばやはりミュージカル「プロデューサーズ」の出演が有名ですが、もともと彼もスタンダップコメディを得意としているので、ロビンとあわせて、真のコメディアンがガチンコ勝負でこの映画に当たったわけです。
だからこその、一級品としてのコメディに仕上がったという訳です。
キーリー家のキャストも豪華
また、ヴァルが連れてくる婚約者のキーリー一家がまた豪華なんです。
キャリスタ・フロックハートの初々しさがたまらない
まず、婚約者役にはあの、アリー・マイラブ」の主演アリー・マクビール役のキャリスタ・フロックハート。
まだそこまで有名でなかった時分だけに、ういういしくて、この作品の中で唯一の若い女性役として華やかな雰囲気を放っています。
ヴァルが恋して、そしてアーモンドやアルバートが「このお嬢さんなら、うちの大事な息子とカップルになってお似合いだ」と納得するだけの魅力的な女性を演じています。
ジーン・ハックマンも意外とコメディもできる
そして、厳格な保守派議員役があのジーン・ハックマンです。
「フレンチ・コネクション」「スーパーマン」などこわもてな役柄が多かったハックマン。
「許されざる者」でアカデミー賞も受賞しています。
そんな彼のミュージカル出演は意外な感じがしますが、大真面目に「現代の家族は乱れている。いろいろな性の混乱や、離婚も多い。その道徳を取り戻すために自分は議員活動をしている」と演説を食卓でぶつ場面などは、彼以外はみんな真実を知っているだけに、そのギャップに思わず吹き出してしまいます。
また、堅物議員でありながら、少し魅力的な女性を見ては、鼻の下をのばしてしまい、奥さんに怒られているような、ちょっとちぐはぐなとぼけた感じがまた吹き出してしまいます。
そんな「堅物」になり切っている演技力を見ると、意外とハックマンもコメディが似合うんだな、と新たな発見がありました。
ダイアン・ウィーストの名演技も見もの
そして、堅物議員の妻役もまた大物、ダイアン・ウィーストが演じています。
ウディ・アレン作品の常連で2度のアカデミー賞受賞女優です。
柔らかな顔立ちと優しい語り口が印象的ですが、堅物議員の妻役だけに、最初のうちは夫に従順で、いわゆる「社会道徳にそった」家族像を彼女もよしとしていました。
しかし、よく話を聞いているうちに、だんだん自分の常識だけがすべてではない、いや、むしろ娘の幸せが一番大事なのではと変化していく、その心情のうつろいを見事に表情やしぐさであらわしているところが、こちらもまた名演技だと言わざるを得ません。
つまり、この映画はコメディでありながらも、名優たちの演技力が光る、贅沢な映画なのです。
そんな彼らが演じるゲイを取り巻く世界。
これを見ると、ゲイも個性の一つで、なぜ隠さなければならないのか、堂々と同じ世界で暮らすことに何の不具合があるのか、と思い知らされます。
ゲラゲラ笑いながらも家族の形と常識の根拠ってなんなんだろう、って自分の周りを顧みる機会を与えてくれる、不思議な魅力を持った映画でした。
ゲイバーが舞台だけに掛かっている音楽も、歌って踊れる当時のディスコナンバーがいっぱい。笑って楽しく、リズムに乗りたい気分のときにオススメします。
\HAPPYな気持ちになれるミュージカル/
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