1978年の公開当時、あの高倉健さんも角川映画に出るのかと驚いたのを思い出します。
『野性の証明』〝読んでから見るか、見てから読むか〟
前年製作の同じ森村誠一原作「人間の証明」では〝読んでから見るか、見てから読むか〟のキャッチフレーズがテレビやラジオのCMで、これでもかとばかりに流され、はっきり言ってあまりいい印象がありませんでした。
あれから40年以上の月日が流れ、角川映画の一連の作品や物量作戦も理解できるようになりましたが、当時中学生だった私には嫌悪感しかありませんでした。
その角川に健さんが、しかも薬師丸ひろ子のデビュー作に…。
『野性の証明』この角川作品スケールがでかい!
ヘリコプターやら戦車やらがどんどん出てきて、まるでハリウッド映画並み。
ロケも日本国内各地はもとより米国、カリフォルニアやコロラドで行われました。
70年代の邦画ではちょっと破格の製作費だったのでは。
『野性の証明』はキャストも豪華。
高倉健さんをはじめ三國連太郎、松方弘樹、梅宮辰夫、丹波哲郎、夏木勲、舘ひろしetc挙げたらキリがありません。
Gメン`75やキイハンター、西部警察、あぶない刑事とアクションものの主役がズラリ。
これだけの俳優陣を集められるのは角川春樹氏しかいませんね。
薬師丸ひろ子の映画デビュー作というのも見逃せません。
彼女を見るため映画館に足を運んだ人も多いのでは?
14歳だった少女は、いまでも日本の芸能界の第一線で活躍しています。
透明感あふれる声質は健在です。
テレビスポットで使われた「お父さん怖いよ、何か来るよ、大勢でお父さんを殺しに来るよ」とおびえるシーン。
映画終盤、「お父さ~ん」と叫びながら健さん演じる味沢に助けを求め駆け寄り、銃で撃たれるシーン。
この2つは名シーンでしょう。
健さんはこの作品の2年前『君よ憤怒の河を渉れ』で主役を張っている
『野性の証明』の前にアクション映画のちょっとしたリハーサルのように見えます。
どちらも佐藤純彌監督ですし、中野良子も両方出演しています。
このあたりの健さんの出演映画を時系列通りに追ってみましょう。
- 1975年:新幹線大爆破
- 1976年:東映から独立→君よ憤怒の河を渉れ
- 1977年:八甲田山→幸福の黄色いハンカチ
- 1978年:冬の華→野性の証明
となります。
1976年、高倉健が東映を退社
1973年に『仁義なき戦い』がヒットし、このまま東映に残っていたら任侠路線から抜け出せなくなると危機感を抱いた健さんは1976年に東映を退社します。
それを考慮して振り返ると、アクションと脱任侠路線の両方にバランスよく出演しているように感じます。
耐える健さんはどの作品にも共通しています。
昭和だから?『野性の証明』は残虐なシーンが多いのも特徴
特殊工作員が自分の腕を食べたり、斧で人の頭をかち割ったり正視できない場面が続きます。
それが昭和だと言ってしまえばそれまでですが。
昭和と言えば薬師丸のファションも、もろに昭和
髪形、シャツ、ポシェット。
どれも薬師丸に似合ってます。
もう1人昭和な人が
誰かというと、舘ひろしです。
バカ息子役で出演していますがバカっぷりが板についてます。
ボディーガード役が成田三樹夫で舘が殺害され「若~~」と叫ぶシーンは必見です。
健さんと松方の対決はド迫力!
ひょっとしたら松方は健さんにライバル心を持っていたかもしれません。
健さんのほうがひと回り年上ですが、役者としても松方より格上でしたし。
松方が演技で健さんを食ってやると思っても不思議ではないでしょう。
健さん一人対大勢の自衛隊員のシーンは『ランボー』を思い起こさせ、健さんは和製ランボー状態です。
しかし『ランボー』は1982年の作品ですから影響を受けているとしたら『ランボー』のほうですけどね。
最後、健さんは亡くなった薬師丸を背負って一人で戦車の列に進んで行きます。
〝見てから読むか〟ではなく〝見てからも読まず〟だった私
小説と映画のエンディングは違っているそうです。
個人的には健さんがどうなったか分からない映画のエンディングでよかった気はします。
『野性の証明』の主題歌にも触れておきましょう。
町田義人が歌った「戦士の休息」です。
出だしの〝ありがとうぬくもりを ありがとう愛を〟から忠実に映画のストーリーをなぞっているような歌詞は泣けます。
‟男は誰もみな 無口な兵士〟は、まんま健さんのことですね。
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本ページの情報は2022年11月時点のものです。
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