日本昔話や古典で有名な「竹取物語」をジブリがアニメ映画化した作品。
まずはどんな映画になったんだろう?という興味がわき、鑑賞しました。
絵のタッチも、これまでのジブリ作品とは一味違い、筆で描いたような絵。
一枚の絵を動画で動かしたような、ちょっと懐かしくもあり、でも新しい不思議な映画です。
また、高畑勲さんの遺作でもあります。
あらすじは概ね竹取物語。
日々の生活に息苦しさを感じ始めるかぐや姫
翁はかぐや姫を大切に想うばかりに高貴な生活をしなければならないと、現実をちょっと見失いがちに。
日々のなかで、だんだんと窮屈な感覚を覚えてしまうかぐや姫。
ある出来事から「身分の違い」という現実を突きつけられます。
月に帰るべき運命を知ったとき・・・。
自分は月に帰ねばならぬことを知り、三日三晩泣きはらしたかぐや姫。
天の羽衣を纏ってしまえば、地上での生活の記憶は無くなり、寂しさも忘れてしまう。
自分を子供のころから愛情深く育ててくれた翁たちや、地上でのことを忘れてしまうことに対しても恐怖心を抱き、帰りたくない、帰りたくないと願い続けます。
満月の夜、天人たちがお迎えに
天の羽衣を纏ったとたん、表情はすっと落ち着き月に帰ってしまいます。
もう記憶を無くしたはずのかぐや姫はふと我に返ったかのように振りむいて、目に涙を浮かべながら月へと帰ります。
全体をとおして、音楽のちからを感じる映画だった。
特に天人が迎えにきたシーン
今までの物語を一気にリセットしてしまう感覚に陥るような、この世のものではないんだと実感させられる音楽。
翁は一瞬、身の丈に合わない生活を望んで我を忘れかけてしまいますが、全てはかぐや姫への愛情で、かぐや姫を幸せに育てあげる一心からのこと。
愛情深く育てたかぐや姫が月へと帰るのは、やはり切ない。
翁と媼の記憶さえなくすことを怖がり嫌がるかぐや姫、羽衣をまとえば記憶がなくなるから寂しくないと諭す天人、ただただわが子の幸せを願い寂しさと悔しさ、悲しさと向き合う翁と媼の関係が心にぐっときました。
一見、無表情で感情がなさそうな天人も羽衣を着せるまでに少しの猶予を与えたり、絶妙なタイミングで羽衣を着せたりする点に、スタジオジブリならではの温かさのようなものを感じます。
キャラ立ちが素晴らしい!
翁・媼目線、かぐや姫目線、そしてかぐや姫と一緒に育った近所の子供たち目線でこの映画を見てみると、すべて違う映画に感じるくらい、登場人物一人一人の物語がきちんと確立しているように思います。
幼少期は天真爛漫に育てられたかぐや姫、自分の身分などあまり考えずに成長してきた。
それが、都へ移り様々な教育を受けた後に、自分が育った故郷へ帰るとそこには貧しそうな子供が。
その時に自分の故郷はここなのか、月なのかを考えたと同時に、自分は普通の一人の女の子として育ちたかったというような感覚を味わったのかなと考察できます。
これは、近年の社会での皇室離れとか女性皇族問題とちょっぴり似ていて、普通であることを望んでいるのでしょう。
我々はもっといい生活、優雅な生活を想像して結局はどちらも無いものねだりであることと、どこか通じるようなお話です。
自分に愛情をくれた人との別れは悲しく、切ない
これが死別ならまだ踏ん切りがつくような気がしますが、言い方を変えれば生き別れであり、大好きな翁と媼の記憶も無くなってしまうとわかっていたら怖くなるのも当たり前。
そして見送る側も自分たちのことを忘れて月へ帰ってしまう瞬間に立ち会わなければならないのはなんとも言えません。
記憶を無くしたはずのかぐや姫が目に涙を浮かべるラストシーンの意味は?
翁と媼、ふるさとを思っての涙であるのか、悲しみや寂しさからの涙なのか。
記憶は完全に消えたわけではなかったのか等、いろいろと考えられますね。
かぐや姫を囲んでいる天人たちは、もしかしたら彼女が完全に記憶をなくしておらず、涙を流していることに気付いているのではとも・・・。
天人を含めて登場するすべての人たちの「心」を感じることができる
企画から映画の公開まで、8年という長い歳月とアニメ映画界で破格な80億円の高額な製作費。
高畑さんの魂がこもっている映画です。
オススメ。
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