ワイルド・バンチAGとアルテ放送局によって制作されているヒューマンドラマです。
本国フランスで2019年から劇場公開された後に、日本でも東北新社の配給によって2020年2月28日に全国ロードショーされました。
ラジ・リ監督の初長編ドラマ
- 2005年以降分断と対立が深まるフランス社会の実情を捉えた「クリシーからモンフェルメイユまで」
- サハラ砂漠の少数民族・トゥアレグ人と武装勢力との衝突を取り上げた「マリの365日」
社会派作品や異色のドキュメンタリーを手掛けてきました。
「レ・ミゼラブル」は、自身がメガホンを取った2017年の短編「Les Miserables」を、104分のオリジナルシナリオへと構成し直した作品です。
第72回カンヌ国際映画祭では審査員賞、2019年度のアカデミー賞でも国際長編映画賞にノミネート。
パリ郊外の低所得者層が暮らす地域で起きた小さないざこざが、地元住民や警察組織を巻き込んだ大騒動へと発展していく衝撃作です。
あらすじ
首都パリから東に17キロほど離れたところに位置するモンフェルメイユ地区は、外国からの移民が多く住んでいて失業率も高くあまり治安は良くありません。
ステファン・ルイスはこの地の警察署の犯罪対策本部で治安維持パトロールをすることに。
賄賂に弱く「ピンクの豚」とニックネームを付けられている班長のクリスに、腕っぷしが強くひとたび乱闘になると止まらないグワダ。
署内でも問題視されているふたりの警察官とタッグを組まされることになったステファンは、プライベートでも離婚した妻との間で子どもの親権を争っていて不安でいっぱいです。
着任早々にこの町で巡業中のサーカス団からライオンの赤ちゃんが盗まれる事件が発生し、スラム街のいたずらっ子・イッサの身柄を3人で確保しました。

不祥事の発覚を恐れるクリスが揉み消しを計ったことによって、最悪の事態へと転がり落ちていくのでした。
キャスト
ダミアン・ボナール
就任1日目から数多くの災難に見舞われていく主人公のステファン・ルイスを演じているのは、ダミアン・ボナールです。
1978年生まれのフランス南部地方アレス出身で、もともとはベルギーの芸術家のもとでアシスタントを務めながら絵画をまなんでいました。
たまたま異国で鑑賞した1本のシェイクスピア劇がきっかけになって、画家から俳優へ転身したという映画のようなエピソードですね。
アラン・ギロディ監督作「垂直のまま」で主役に抜擢されて、フランス映画芸術技術アカデミーから有望男優賞を贈られています。
アレクシス・マネンティ
初対面のステファンに対していきなり「ポマード」という渾名を付ける、クリス役に扮しているのはアレクシス・マネンティです。
ジェブリル・ゾンガ
ドレッドヘアーに髭をたくわえてアーミーパンツを履いたおよそ警官らしくないグワダ役には、ジェブリル・ゾンガが起用されていました。
頭脳派のステファン、リーダーシップを発揮するクリス、武闘派のグワダと3人の役者さんがそれぞれの持ち味を発揮していて物語の緊迫感を高めていきます。
感想
2018年サッカーワールドカップでの優勝が決まって歓喜に沸き上がる、シャンゼリゼ通りや凱旋門広場がオープニングから映し出されていきます。
街中に溢れかえった人たちの顔ぶれは生粋のパリジャン・パリジェンヌばかりではなく、アフリカ系からイスラム教徒にアジア人までいて実に多種多様です。
道ばたには焼きとうもろこしやトルティーヤの屋台までが立ち並んでいて、お祭り気分で食べてみたくなりますね。
ワールドカップの結果よりも日々の食事の方がずっと重要な人たち
その一方ではパリの中心部を離れるにしたがって盛り上がりは少しずつ鳴りをひそめていき、行き交う人たちも無関心になっていました。



見るからにただ者ではないステファン・ルイス
人種や宗教によって自然と縄張り争いが繰り広げられているこの危険地帯に降り立った、ステファン・ルイスは見るからにただ者ではありません。
深い知性を湛えた瞳にお洒落なブルーのシャツと、オールバックのヘアスタイルがビシッと決まっています。
地元出身者のクリスとグワダからさっそく恒例となる新人いびりを受けることになりながらも、動じることなく着々と任務をこなすステファンの後ろ姿が勇ましく見えます。
シルバーのプジョーに乗って見回りを続けていく一向に対して、沿道から住民たちが投げかける眼差しには剥き出しの敵意が込められていました。
そして悲劇が起こる
違法な薬物の取り引きに加担して4年間服役していた男性がわざわざ出所の挨拶にやってきますが、クリスの長年の経験によると「半分以上が半年以内に塀の向こうに戻る」そうです。
[moveline color=”#afeeee” sec=”5″ thick=”40″ away=”2″]ただ単に犯罪者を逮捕して罪をさばくだけでなく、[move]如何にして社会復帰をサポートするのか考えさせられる[/move]ワンシーンですね。[/moveline]
大人の生きざまを見て子どもたちが大きくなっていくように、モンフェルメイユの少年少女たちも胸中穏やかではありません。
家族の愛情に餓えていた男の子・イッサが、移動サーカスのテントに忍び込んで檻の中で戯れ合うライオンの親子をじっと見つめる様子が切ないです。
無意識のうちにイッサが手を伸ばしてしまった檻の閂が、悲劇の引き金を象徴しているようで心に残りました。
「レ・ミゼラブル」Twitterの口コミレビュー
ラジ・リ監督の『レ・ミゼラブル』で、田舎からパリに転属してきた警官ステファンが、ときどき途方に暮れたような表情をしていたのを思い出す。きっと彼には目の前に起こっていることが一体何なのか理解できなかったのだろうな。そして最後の最後、暗くて狭い団地に閉じ込められて、やっとわかる。 pic.twitter.com/AkEROkZ1MD
— pika (@bokonon_ist) May 31, 2020
ラジ・リ監督の初長編監督作品のフランス映画「レ・ミゼラブル(Les miserables)」。今年観た新作公開映画の中ではダントツの現状ベスト1!ビクトル・ユゴーの小説「Les miserables」とは全く違いますが、原作を齧っていると、より面白いのではと思います。コメント書いてます。2/28日本公開。お薦め。 pic.twitter.com/JdloWJBNBV
— 小島秀夫 (@Kojima_Hideo) February 16, 2020
『レ・ミゼラブル』繰り返すけれどもの凄い大傑作なので……。ラストのあれは息が止まった。ラジ・リ監督、絶対名前を覚えておかないと。有名で同名タイトルがゴロゴロある中で、敢えてそれを使うところにメッセージ性も自信も感じられる。 pic.twitter.com/waxLEI40FH
— ろろ・そぜ (@rorosoze) March 18, 2020
レ・ミゼラブル、悲惨な人々、哀れな人々。ラジ・リ監督『レ・ミゼラブル』のポスターには「世の中には悪い草も悪い人間もない。ただ育てる者が悪いだけだ」というユゴーの言葉が。映画観賞後、その言葉の重みに打ちのめされる。他人事じゃない。たぶん、”ふつう”の人々の、それぞれの”正義”が、衝突し
— 温又柔 おんゆうじゅう 온유쥬 (@WenYuju) March 22, 2020
ラジ・リ監督「レ・ミゼラブル」を。これは凄い…タイトル、舞台、ストーリー、見事なセンス。スクリーンに映し出されたユーゴーの言葉が胸に残る。素晴らしかった。 pic.twitter.com/9DpbOktDLh
— Gayaapii (@Gayaapii) March 7, 2020
ラジ・リ監督の「#レ・ミゼラブル 」。ユゴーの言葉が嫌になるほど染みる。最高。ドローン撮影がこうも鳥肌の立つ演出になっていくとは……。個人的には東京がオリンピックイヤーを迎える今こそ観て、と思う。まっすぐに観て。感じて。 pic.twitter.com/qPrMnaJPZX
— 福山香温 Kanon Fukuyama (@kanonfukuyama) March 5, 2020
まとめ
エンディングロールが流れる前に画面上に引用されるのは、19世紀フランスを代表する文豪ヴィクトル・ユゴーの
「悪い子供も植物もない、育てる人間が悪いだけ」
という言葉です。
ユゴーのベストセラー小説「レ・ミゼラブル」の中に登場する1節で、この映画の舞台になっているモンフェルメイユは主要キャラクター・コゼットが養子に出される場所でもあります。
「ああ無情」というタイトルで小学生向けに抄訳された児童書を、1度は学校や図書館で手に取ったことがあるのでは??
完訳は岩波文庫にすると1冊が600ページ近くで全4巻にもなる長編大作ですが、是非とも読破にチャレンジしてみて下さい。
comment