映画「クロッシング」は、ミレニアムズ・フィルムズとサンダーロードフィルムズ社によって2008年にアメリカで製作されているサスペンスドラマ。
第32回のサンダンス国際映画祭でプレミアム上映された後に、日本でもTOHOシネマズ シャンテを封切り館に2010年10月30日〜プレシディオの配給によって全国ロードショー。
ベテラン刑事と新米警官が火花を散らす「トレーニングデイ」や、誰もが知っている円卓の騎士の伝説に大胆不適に斬り込んでいく「キング・アーサー」など。バディ・ムービーから歴史スペクタクルまでの幅広い創作活動を続けている、アントン・フークワ監督がメガホンを取りました。
ブラックリール賞の助演男優賞に輝いた他、BETアワードにおける主演男優賞にもノミネートされています。
ニューヨークの犯罪多発地区を舞台にして、3人の刑事の運命が偶然にも交錯していく衝撃作です。
「クロッシング」あらすじ
不正資金を横取りし、ヒヤヒヤしているサル
ぜん息の持病がありもうすぐ双子を出産する妻を抱えているサルは、引っ越し費用の頭金を捻出しなければなりません。
これまでにも犯罪者から不正なお金を横取りしてきましたが、上司や同僚たちに露見しないかとヒヤヒヤしていました。
定年直前のエディ
あと7日後には定年を迎えることになるエディでしたが、最後の奉公として新人の教育係を押し付けられてしまいます。
徹底的にことなかれ主義を決め込むエディと、手柄を挙げたくて血気盛んな若手とは何かにつけて衝突して上手くいきません。
「タンゴ」ことクラレンス
ここ何年もの間潜入捜査を続けていましたが、今度のターゲットは親友のキャズです。
それぞれに重大なターニングポイントが訪れる中で、3人が所属するブルックリン65分署では上層部を揺るがすスキャンダルが持ち上がっていくのでした。
「クロッシング」楽曲
タンゴとキャズがふたり連れ立って行き付けにしているクラブに入店すると、大音量で響き渡るのがアンクル・マーダの「Informer」です。
本名こそレオナルド・グラントと如何にも由緒正しい生まれのようなイメージがありますが、イーストニューヨークでは「マーダおじさん」の愛称で親しまれているラッパーですよ。
店内のVIPルームに案内された途端にガラリと雰囲気が変わって、アイザック・ヘイズの「Hyperbolicsyllabics」が流れていました。
独身生活を貫き通してきたエディが久しぶりに女性から受け取ったプレゼントの時計の裏面には、「時間しかない、でも時間は待たない」と刻み込まれています。
このフレーズはボーイ・ジョージが率いるカルチャー・クラブの代表曲「Time(Crock of The Heart)」の1節です。
定年退職が間近に差し迫っているエディのようでもあり、クライマックスへと突き進んでいく物語そのものを暗示しているようでもありました。
夜明け前の静けさに包まれているブルックリンの市街地を空中から捉えたオープニングショットからは、いやが上にも波乱の予感がありました。
「人生はより善か、より悪か」というモノローグも、光と闇とのコントラストが際立つ街並みにピッタリと合っています。
フェンス横に停められた車の運転席に座っているのは妻子持ちの刑事・サルで、助手席で背中を丸めているのは情報屋のカーロです。
仮釈放中にも関わらず飲酒運転をした挙げ句に逮捕されても、カーロは懲りた様子もありません。
延々と言い訳を並べ立てて自己正当化を繰り返す往生際の悪さには、呆れ果ててしまいますね。
直後に車内で鳴り響いた1発の銃声と強烈なフラッシュには、思わずビックリしてしまいました。
紙袋に入った札束を無造作に奪い取ってヘッドライトが照らし出す向こう側へと消え失せてサルの後ろ姿には、2度と平穏無事な日常には引き返せないような悲愴感がにじみ出ています。
カーテンとブラインドの隙間から微かに明かりが射し込んでくるアパートの一室で、悪夢にうなされているのが年配刑事のエディです。
ベッドサイドにはたっぷりと中身が満たされたアイリッシュ・ウイスキーのボトルが置かれていて、飲み過ぎと翌日の勤務への影響を心配してしまいました。
弾丸の入っていないピストルをこめかみに当ててロシアン・ルーレットの真似事をするなど、精神的にもかなり追い詰められている状態が伝わってきます。
出勤して早々のロッカールームではふたまわり以上年下の後輩たちに、「店じまい」などとからかわれてしまうなど不甲斐ないです。
相手の無礼な振る舞いに対しても理路整然と言い負かすこともなく、強硬的な手段に訴え出ることもありません。
眠ったように生きている初老の窓際族が、いざというときには人並み外れた行動力と恐るべきパワーを発揮するとは思いもよらないでしょう。
潜入捜査官のタンゴが住んでいるのはBK公営住宅と呼ばれている約1万5000人が入居する地区で、日本で言えば近年は老朽化と高齢化が著しい団地のようなものでしょうか。
「タンゴ」というのは仲間うちで呼び合うときに使うニックネームのようなもので、本当の名前はクラレンスで知的な響きさえ感じてしまいました。
レストランではパンケーキとベーコンエッグがお気に入りですが、宗教的な理由から豚肉は食べないためにターキーベーコンを特注する敬虔さに感心させられます。
アルゼンチン・タンゴでも踊るかのように目にも止まらないスピードで拳銃を抜く神業は、この界隈ではもはや伝説と化しているほどです。
愛車は高級感あふれるブラックのBMWで、金ぴかのネックレスにダボダボのストリートファッションはギャングスターにしか見えません。
ひそかに大物の逮捕と昇進を画策していますが、かつて自らの生命を助けてくれた友人を裏切ることが出来るかが悩みどころです。
まとめ
サル役を演じているイーサン・ホークが肌身離さずに胸に付けている、アクセサリーの十字架(クロス)に注目して下さい。
エディ役に扮しているリチャード・ギアと、タンゴ役のドン・チードルがぶつかりそうになるのも大通りの交差点(クロッシング)で何とも意味深でした。
ハリウッドでも屈指の実力派の名俳優たちによる豪華な共演と、迫真の演技力の応酬には胸が熱くなります。
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