「最高の人生の見つけ方」はロブ・ライナー監督によって、2007年に米で製作されました。
本国アメリカでワーナー・ブラザーズ映画社の配給によって先行上映された後に、日本でも2008年の5月10日に劇場公開されました。
97分のオリジナルシナリオを書き下ろしたのは、「ワン・チャンス」でデヴィッド・フランケル監督とタッグを組んだジャスティン・ザッカムです。
「記者たち 衝撃と畏怖」や「スパイナル・タップ」などメガホンを取ったのは、社会派サスペンスから風刺劇までを取り扱う映画作家です。
米国映画評議会によって2007年度のトップテン映画のひとつに選ばれていて、1億7000万ドルを越える興行収入を記録しています。
自らの死期の悟ったふたりの初老の男性が病院を飛び出して最後の大暴れを繰り広げていくヒューマンドラマに仕上がりました。
「最高の人生の見つけ方」あらすじ
カーター・チェンバーズは自動車の整備士として40年以上に渡って働いてきましたが、近頃では体の調子が思わしくありません。
精密検査の結果ガンが発見されたために緊急入院することになり、大富豪のエドワード・コールと同室になりました。
間もなくカーターは医師から余命幾ばくもないことを告げられて、エドワードが全く同じ境遇であることを知ります。
心が通い合ったカーターとエドワードが始めたことは、それぞれがこれまでの人生でやり残してきたことをひとつひとつリストアップしていくことです。
リストが満タンになった時にふたりは医師や家族が決まるのも聞き入れずに、人生の最後を精一杯楽しむための旅に出るのでした。
見どころはどこ?
最高のコンビを名優で再現
地位と名声には恵まれながらも何処か寂しげなエドワード・コールの役に、ジャック・ニコルソンが扮していました。
映画の冒頭でこそエリート意識丸出しな鼻持ちならないキャラクターでしたが、中盤以降の変わり様に注目して下さい。
生真面目で融通がきかないカーター・チェンバーズの役には、モーガン・フリーマンのイメージがぴったり填まっていますね。
名匠・ライナー監督が2012年に発表した「最高の人生のはじめ方」では、今作とはひと味違った役どころに挑戦しているのが面白いです。
エドワードに振り回されていく夫に困惑気味な、バージニア・チェンバーズ役のビヴァリー・トッドもいい味を出しています。
我が儘なエドワードに涙ぐましいほどの忠誠を誓う、秘書のトマス役を演じているショーン・ヘイズも存在感抜群です。
死を笑い飛ばすために
本作品の原題は「The Bucket List」で日本語に訳すとバケツリスト、あるいは棺桶リストといったところでしょうか。
首にロープを掛けてbucket(バケツ)踏み台にする様子から、自殺のことを「バケツを蹴る」と例える過激な表現です。
ブラックユーモアの中にも人生哲学が込められていて、自分自身の死でさえ笑いのネタにしてしまうのがアメリカらしいですね。
本作品では間もなく死を迎えようとしているカーターとエドワードが、限られた時間を活かすために始めたのがバケツリストです。
頭の中で思い描くばかりではなく文章にして声に出して読み上げて、他の誰かと共有することにも意味があります。
ポケットの中にそっと忍ばせて常時持ち歩くことによって、不可能に思えていたことも現実味を帯びてくるはずです。
若干23歳の余命宣告を受けた女性を主人公にした、ナンシー・キンケードの「死ぬまでにしたい10のこと」というアメリカの小説もありますので読んでみて下さい。
海を越え空を舞いてっぺんを目指す
フランスの高級レストランから香港のお洒落なバーに、アフリカやインドの目を奪われるような絶景も用意されています。
スカイダイビングからライオン狩りまで挑んでいく、カーターとエドワードの行動力はシルバーエイジとは思えません。
レース場を貸し切りにしてマスタングを豪快に走らせるシーンなど、金に糸目をつけない散財っぷりにはスカッとします。
コーヒーブレイクの度に登場する希少品の豆、コピ・ルアクも然り気無い伏線になっていますので覚えておいて下さい。
エベレストに登山するという無謀過ぎるミッションも、1度は失敗しながらも最後には思わぬ形で成し遂げてしまうのがビックリです。
感想
正反対のふたりが病院を脱走
財力に物を言わせて個室を希望していたエドワード・コールが、コスト削減や福祉事業縮小の煽りを受けて相部屋に入れられてしまうオープニングがユーモラスです。
偶然にも同じ病室となったカーター・チェンバーズと、同じ余命6カ月を宣告されてしまうのが何とも運命的な巡り合わせでした。
これまでの人生において欲しいものは何でも手に入れてきたエドワードでしたが、家族の愛だけは持っていません。
愛する妻と幸せに暮らしてきたはずのカーターも、歳月を重ねていく中では彼女のために我慢を強いられています。
お互いに足りないものを埋め合っていくかのような、カーターとエドワードの凸凹コンビぶりが心地良かったです。
お金だけを物事の判断基準にしてきたエドワードが、カーターとの触れ合いを通して心変わりをしていることも伝わってきました。
遅すぎた青春と切れない家族の絆
若い時には家族のためにありとあらゆる楽しみを我慢してきたカーターが、遅れてきた青春時代を謳歌する姿が微笑ましかったです。
それとは対照的にエドワードがカーターの妻・バージニアから、「夫を返して」と厳しく詰め寄られる場面には後ろめたくなってしまいました。
周囲の反対を強引に押し切って計画を決行してきたカーターの心の奥底にも、迷いが生じてしまうのは致し方ありません。
更にはエドワードと生き別れになった娘を復縁させるためのカーターのお節介によって、事態はややこしくしなっていく一方です。
いつの時代どこの国でも家族のしがらみだけは、そう簡単には切り離せないことを思い知らさるようでした。
忘れ難い最後の3カ月
遂にはカーターがひと足先にこの世を去ってしまい、独りっきりで取り残されたエドワードの後ろ姿が切ないです。
エドワードが読み上げる弔辞の中に出てくる、「3カ月前まではまるっきり他人だった」というセリフが印象的でした。
長い人生の中で始めて心から理解し合える親友と出会えたのが、死の僅かに3カ月前だったのが皮肉な味わいです。
ふたりの死によって未完成となったリストを、思わぬ人物が引き継いで完遂するクライマックスにはホロリとさせられました。
まとめ
社会的に成功した裕福な白人とブルーカラーのアフリカ系アメリカ人との組み合わせには、異なる価値観や考え方を受け入れていく大切さを痛感させられます。
10年以上前に公開された作品ですが、分断と対立が深まっていく今の時代に忘れかけているメッセージが込められているはずです。
本作の舞台をアメリカから日本へと移行して、主要キャラクターのふたりを女性に変更したリメイク作品も製作されました。
犬童一心監督版「最高の人生の見つけ方」は2019年10月11日に全国ロードショーされますので、おさらいにこの映画も見てくださいね。
自分を変える新しい何かにチャレンジしてみたい、視野を広げてみたい方たちにもオススメな1本になっています。
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