「ディクテーター 身元不明でニューヨーク」はフォー・バイ・トゥ・フィルムズ社によって製作されているブラックコメディーです。
本国アメリカでは2012年の5月16日から劇場公開された後に、日本でもパラマウント社の配給によってTOHOシネマズ六本木ヒルズを封切り館に全国ロードショーされました。
公開中止をする国もあった曰くつきの映画
内戦と弾圧が繰り返される小国でひとりのミュージシャンが自由を求めて立ち上がる「ボブ・ディランの頭のなか」や、熱狂的な愛国者が生まれて初めての海外旅行で思わぬ騒動を巻き起こしていく「オレの獲物はビンラディン」など。
マレーシアやウズベキスタンなどの一部のイスラム圏での国では、検閲バージョンで上映されたり公開中止に追い込まれたりするなど曰く付きの作品です。
架空の独裁国家からニューヨークへとやって来た破天荒な指導者に、次から次へと災難が降りかかってくる風刺劇に仕上がっています。
「ディクテーター 身元不明でニューヨーク」あらすじ
1973年にアフリカ大陸の小さな国・ワディアで生まれたアラジーンは、父親が亡くなった7歳の時に最高指導者の地位に祭り上げられました。
豊富な産油量と天然資源を独り占めにして、砂漠のど真ん中に建設した豪華な宮殿で世界中から呼び寄せた美女たちに囲まれながら贅沢三昧です。
逆らう者や異論を唱える者は片っ端から捕らえて処刑してしまったために、心から信頼できるのは叔父のタミールくらいしかいません。
叔父のタミールがアラジーンの抹殺を企む
本来であれば後継者に選ばれて権力を握るはずだったタミールは不満たらたらで、ひそかにアラジーンを陥れるための罠を仕掛けています。
暗殺のチャンスはアラジーンが国連安全保障理事会で演説するために、アメリカを訪れるときしかありません。
いち早く不穏な動きを察知して滞在先のホテルを脱出したアラジーンは、自慢の髭を切り落とされた挙げ句に無一文になったまま大都会ニューヨークをさ迷い歩くのでした。
「ディクテーター 身元不明でニューヨーク」楽曲
アラジーンが秘密核施設を査察するシーンのバックに流れているのは、ジァワル・ハムダウィが熱唱する「ila nzour nebra」です。
陽気なラテン系ミュージックのリズム感と、国際社会が懸念する戦争勃発の火種とのミスマッチには味わいがありますね。
国際連合本部ビルのあるニューヨーク5番街にアラジーンが降り立った瞬間に、ナウファル・アル・ワハブの「The Next Episode」が鳴り響きます。
軽快なラップと沿道に押し寄せた大勢のデモ参加者が浴びせるブーイングが重なりますが、当の本人はラクダに乗った高みの見物で気にも止めません。
権力者の座を追われてすべてを失い路頭に迷うアラジーンを、M・C・ライの代表曲「Everybody Hurts」が優しく慰めていました。
やりたい放題に生きてきた独裁者の胸の奥底にも、初めて人間らしい感情が芽生え初めていくような予感が漂っています。
「ディクテーター 身元不明でニューヨーク」感想
2011年の12月17日にこの世を去った北の将軍様への追悼メッセージが映し出されていく、大胆不敵なオープニングです。
さすが独裁者!破茶滅茶ぶりがスゴイ!
生まれた時から立派なあご髭を生やしていたという人間離れした逸話と、爆撃機の発射スイッチをオモチャの代わりにしていたという幼少時代のエピソードは並大抵ではありません。
自国開催されたオリンピックでは自ら選手として出場して、ライバルたちをピストルで脅しながら14個の金メダルと世界記録を打ち立ててしまうハチャメチャぶりに笑わされました。
政敵や外部からの侵入者ばかりではなく、側近や血を分けた家族までも粛清してしまうほどの暴走に圧倒されます。
そんな独裁者の横暴に我慢できなくなった反政府グループやレジスタンスから、銃撃されてしまうこともしばしばのようです。
幾人もの影武者を用意して急襲に備えていたり、変装して窮地を脱出したりと意外にもしぶとくて抜け目がないですね。
テレビゲームの展開が不気味
外国のブランド品や電化製品が大好きなアラジーンの最近のマイブームはテレビゲームで、特に任天堂のWiiには目がありません。
世界各地の主要都市や観光名所に忍び込んでターゲットを仕留めていく、「Wii TERRORIST 2K12」というタイトルの悪趣味なソフトには呆れてしまいました。
セレクト画面にはミュンヘン・オリンピックやロンドンの市街地などの他にも、トーキョー・サブウェイなるステージも表示されているので驚かされます。
各ステージでは自爆ベストや青竜刀などのアイテムをできるかぎり多く獲得しつつ、ボーナスポイントを集めていくシステムのようです。
実際のテロリスト掃討作戦にドローンや遠隔制御のロボットが導入されているという、映画顔負けの事実を御存知でしょうか。
ゲームの中で起きていたはずの戦争やテロ事件が、いつの間にやら現実の世界へと侵食していくようで何とも不気味です。
アラジーンが常日頃から「悪の巣窟」と揶揄しているのは?
かつては世界一の軍事力と経済力を誇っていた超大国・アメリカです。
ジェームズ・キャメロン監督の大ヒット作「アバター」を、「変な青い奴」とバッサリ切り捨てるなど遠慮会釈もありません。
往年の名画「キングコング」でお馴染みのエンパイア・ステート・ビルも、アラジーンにとっては「破壊される前に見ておくもの」なのが皮肉でした。
最高級のランカスター・ホテルに招かれて将軍専用に改装されたVIPルームでの待遇にご満悦な様子のアラジーンでしたが、水面下で進行中の恐るべきクーデターに手に汗握ります。
まとめ
主人公のアラジーン将軍を怪演しているのは、この映画の脚本執筆と製作も担当している芸達者なサシャ・バロン・コーエンです。
傍若無人な振る舞いや過激なセリフの数々も、この変幻自在なコメディアンの手にかかるとそれほど嫌みはありません。
権謀術数に長けたアラジーンの側近には、ベテラン俳優のベン・キングズレーのイメージがぴったり填まっています。
映画後半で落ちぶれたアラジーンに救いの手を差し伸べていく、ヒロインのゾーイにはアンナ・ファリスが扮していました。
荒唐無稽なストーリー展開の中にも、時おり今の時代の社会問題を鋭く捉えていて考えさせられます。
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