『耳をすませば』の概要と背景
『耳をすませば』は、1995年公開、近藤善文監督、スタジオジブリ製作による長編アニメーション映画です。
原作は、柊あおいの同名漫画作品で、設定や展開に変更が加えられ、前作『平成狸合戦ぽんぽこ』の舞台となった多摩丘陵の住宅開発後となる東京都多摩市、日野市、武蔵野市の景観を描いているのが特徴です。
日本初のドルビーデジタルを採用して音つくりにこだわり、古楽器もいくつか登場し、物語中に出てくる小道具にヴァイオリンや1970年代のポップミュージックが使用され、郷愁を感じさせています。
また2002年公開の『猫の恩返し』は、主人公が書いた物語という設定でつながっています。
『耳をすませば』の感想
古いって言えば古い、青春初恋物語が秘める新しさに注目!
主人公の雫と天沢聖司との出会いは、友人から依頼されていた「カントリーロード」の歌詞の和訳を「コンクリーロード」と替え歌にしてふざけていたところを、注意されたことでした。
スタジオジブリ作品には、スタジオや美術大学をはじめとした多くの大学があり、スタッフが住んでなじみ深い東京都多摩市、日野市、武蔵野市周辺を舞台とした作品がいくつかあります。
1970年代から新興住宅地として開発が進み、自然破壊と共に地面や建物によるコンクリートで覆われた場所となっていることを揶揄しています。
開発当時の自然と突如としてできた真新しい住宅地に違和感が感じられていたことが、中学生の主人公たちの替え歌によって示されています。
古いって言えば古い女子中学生の替え歌遊びとその選曲なのですが、学校の教材とはそのような物で、リアルではあります。
『耳をすませば』が製作された頃は、開発から20年以上が経ち、オイルショック時の建築に失敗感が漂う地域もあれば、小綺麗で落ち着いた街へ変貌も遂げた街もあり、映画はではそんな場所を舞台に取り上げているんですね。
前作の『平成狸合戦ぽんぽこ』のテーマでもあった多摩丘陵の自然破壊は、その後を描いた『耳をすませば』で、1970年代のヒットソング「カントリーロード」の持つ郷愁によって語られているように感じました。
このあたりは、製作からさらに20年以上が経過し、さらに古くさく感じる時代感が漂いますが、突然新しくなる寸前の予感を秘めています。
ラグビーワールドカップではっ!と思いつく点
「カントリーロード」は、1971年にヒットしたアメリカのポップミュージックで、ジョン・デンバーの代表曲のひとつです。
1974年には、オリビア・ニュートン=ジョンがカバーし、1976年に日本でもヒットしたため、日本ではこちらの方が有名かも知れません。
わたしが子供のときに耳にした曲で、もっと上の世代であった映画製作者たちにとっては、この曲が意味する青春を謳歌している時代感は特別なのだという事は感じます。
アメリカで言えばベビーブーマー時代で、最もアメリカが良かった1960~1970年代を彷彿させるものです。
自分は、非常にアメリカ的な郷愁を歌っているように感じていたため、正直「古い…。」と感じました。
この印象は公開当時も現在もそう変わりはなかったのですが、最近ビミョーに変わってきました。
それは、ラグビーワールドカップ日本大会において、日本代表チームが結束のために「ビクトリーロード」と、替え歌にしたて歌っていたことが再び脚光を浴びたためです。
なぜ今頃「カントリーロード」?とその選曲に思ったのですが、それでふと気が付くことがありました。
昔の日本の子供が観る漫画やアニメは、剣道・柔道・野球・テニスでした。
それより年上の子供や若い年代が見る実写ドラマの青春物では、格好良い男性がしているスポーツは、そういえばラグビーでした。
ラガーシャツを見て、どこか懐かしく見覚えがあるのはそのせいです。
サッカーの人気とともに入れ替わったスポーツの趣向だったようです。
「ビクトリーロード」を聴いて胸が熱くなるのは、60~70才くらいの役員世代ではないかと思います。
そういう点で、今見直してその価値のわかるアニメーション映画だと思います。
メインストーリーよりロマンティックなバロンの逸話
『耳をすませば』には、メインの初恋物語や音楽とは別に、もう一つ素敵なサブストーリーが。
この映画の中でも1番素敵に感じるところで、それは古道具店の地球屋にあったバロンという猫の人形にまつわるお話です。
バロンは、店主の西司朗が、留学先ドイツのカフェから持ち帰ったネコの人形です。
帰国前に一目ぼれして店主に購入を願うと、人形は一対であり、もう一体の恋人の方は修理に出しているため離れ離れにできないと断られます。
しかし、当時西の恋人であったドイツ人女性が、再会する時までその人形を預かって一緒にすればよいという事で承諾されました。
でも戦争が始まってしまい、終戦後にドイツに渡るも恋人の消息が分からず、それ以来バロンは一体のままということでした。
澪が自作小説のなかで付けたバロンの恋人の名も、西の恋人の名も偶然にも同じ“ルイーズ”でした。
・・・という、余韻が残る展開です。
この映画には、聖地巡礼となるモデルとされた地域やお店があります。
その中の一つ聖蹟桜ヶ丘にあったお店は閉店してしまいましたが、“ノア”という洋菓子店ではバロンとルイーズを模した人形が並べて飾られているそうです。
たとえ作り話でもほっとさせられる、真剣に考えてしまうストーリーでした。
まとめ
『耳をすませば』は、わたしにとっては少し古臭く感じる郷愁に満ちすぎるお話に感じました。
ですが時を経て、ニワカラグビーファンとなり、今再燃焼しているアニメーション映画です。
これまでと違った角度で映画を観なおすことができて良かったです。
舞台のモデルとなった聖蹟桜ヶ丘周辺にお住いの人はもちろん、自分同様、あの荒々しいスポーツのテーマソングが郷愁に満ちた故郷に帰りたいとうたった「カントリーロード」のメロディーなのかが不思議に思えた人にもおすすめ作品です。
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