2016年に公開され、アニメ作品として記録的なヒットとなった新海誠監督の「君の名は。」。
新海誠監督の作品は、それまでは美しい映像と切ない描写でコアなファンを獲得していましたが、それほど多くの人々に受け入れられてきたとはいえませんでした。
美しいのだけれど、なんとなく雰囲気は重く、ユーモアも少なく、一人でこっそりとしみじみとみる、というタイプの映画だったともいえます。
しかし、この映画では「電車男」などで有名な川村元気が制作にかかわり、多くの人の心をつかむ作品となりました。
もともとのファンとしては、「どうせまた数か月で映画館での公開が終わるので、DVDの発売はもうすぐだな」と思っていたところ、毎週毎週ランキングの1位を獲得、DVDの発売は公開から一年後となったのは驚くばかりでした。
それまでとは一味違う新海誠監督の作品
内容的にもユーモアが多く、全体に明るく、そして切なさだけでは終わらない映画となっており、今までとは違うと思う一方で、新海誠は一歩前に進んだのだな、と感じさせられました。
男女の身体が入れ替わる、というストーリーはこれまでも小説や映画、漫画などで繰り返されてきましたが、そこで描かれる性的なことに関する戸惑いはともすると湿っぽくなりがちですが、この映画の中ではリアリティがありながらからっと笑えるものになっています。
また、長野県の古い神社の娘であるヒロイン三葉。
彼女は伝統のある神社の巫女として果たさなくてはいけない儀式に言われるままに参加しているものの、違和感も感じており、「生まれ変わったら東京のイケメン男子高校生にしてくださーい」というセリフは切実なものではあります。
しかしその雰囲気はあくまで笑える感じがあります。
そこで本当に東京のイケメン男子高校生の身体と入れ替わってしまうのも笑えるのですが、そこで落ち込まずに東京の生活を楽しんでしまう、というのもこの映画の面白さを盛り上げてくれました。
映像の美しさが映画の面白さを高めている
新海誠作品の一番の特徴である「映像の美しさ」もまたワンランク上に達していたのではないかと思います。
自然の美しさは以前に制作された「星を追う子ども」にもみられましたが、長野県の山と森の中に差し込む光の美しさは、そのひんやりとした空気感も感じさせます。
また、彗星が飛ぶ情景は想像上のものですが、その美しさだけでなく、バラバラになって飛び散り地面に到達するまでのスピード感、地上を破壊する威力の大きさ、まがまがしさが、実際にあったことのように身に迫って感じられます。
対照的な二人の高校生
その一方で、東京の新宿付近に住む高校生立花瀧の生活として、華やかな都会の情景が描かれます。
東京に住んでいる瀧にとっては、日常の生活だけれど、都会にあこがれる三葉にとっては輝くような情景であることが、ビルに反射する光や、その上に広がる空によって表現されているのは見事です。
対照的な二つの世界を同時に描いたのは「星を追うこども」でも同じですが、どちらも同じ日本である、ということが本作の特徴であり、面白さでもあります。
同時代の日本で、同じようにスマホを使っている高校生の生活がこれほど違うものか、という驚きがあります。
やがてなんとなく双方を意識し始める二人ですが、自分の思いに気づいたちょうどその時に二人は入れ替わりが出来なくなってしまいます。
また、瀧は三葉が彗星の落下によってすでに死んでしまっている、という事実を突きつけられます。
ここからが新海誠らしい切ない物語の始まりで、東京のビル街に振る雪の情景は以前の作品「秒速5センチメートル」を想像させます。
ハッピーエンドなんて…
しかし、最後には二人が再会することができたわけで、そこがこれまでの作品と大きく違ったところといえるでしょう。
これまで新海誠は「最後にハッピーエンドになるなんて」という恥じらいのようなものがあったのかもしれません。
しかし、そこを乗り越えて、陳腐な物語にならず、かつ二人を幸せにすることができた、というのがこの作品を通じて新海誠が得ることができた境地といえるでしょう。
何度も見たくなる仕掛けが散りばめられている
その陰には三葉の身体の中で、なんとか彗星による大災害を防ごうと走り回った瀧と、三葉自身が頑張ったスリリングな展開があるわけですが、そこでは時系列が複雑にからみあっており、一度見ただけではどうなっているのかわかりにくい、というところが、実はこの映画のヒットの影にあったのではないかとも思います。
つまり、どうなっているの?という疑問から、ついついもう一度見てみたくなる、という仕掛けがあるのです。
これを新海誠や川村元気が意図的にしかけたかどうかは疑問ですが、三葉と瀧に感情移入すると、本人たちも全体的に自分たちはどうなっていたんだろう、と必ず振り返って考えざるを得ないようなトリックがしかけられていた、と言えます。
映画と音楽のリンク
もう一つこの映画の魅力を語るために大事なことは、音楽との関係です。
全編を通じて流れるRADWIMPSのいくつかの楽曲には、瀧と三葉の心情が、あるときには楽し気に、あるときには切なく描き出されているのですが、そのリズムと映像の変化が細かくリンクしていることに気づきます。
例えば、二人が入れ替わった生活を始めたころ、「前前前世」という曲に合わせて長野県の山の風景と新宿の風景がぱっぱっと入れ替わりつつスピーディに写されるシーンがあります。
陽が昇り、陽が沈んでいく空は同じだけれど、それが照らし出される風景が長野と新宿で交代に映し出されていきます。
これに合わせて流れていく軽快な楽曲のリズムが、二人の状況を説明するだけでなく、それが「楽しいものだ」ということを表現しています。
映画のシーンと楽曲のリズムをぴったり合わせる、というのは他のアニメーション作品でも時々見られることですが、ここまで巧みに編集された作品はなかなかないかもしれません。
その気持ちよさがこの映画の魅力を高めているといえるでしょう。
【まとめ】この映画が大ヒットした理由は?
このように、気持ちよく楽しく見て、引き付けられていく一方で、大災害に立ち向かう、というテーマと、男女の再会というテーマが同時に進行する。つまりは3つの面白さを同時に体験できる、というところがこの映画のすばらしさで、人気が出たのも当然と思います。
その後、「天気の子」もヒットしていますが、新海誠監督の作品にはこれからどこまで進化していくのかな、と大きな期待を感じています。
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