1992年7月に公開されたアニメーション映画です。
ジブリの前作『魔女の宅急便』に続き、劇場公開アニメとしては当時、興行成績の日本記録を超えました。
空を飛ぶことにあこがれていた宮崎監督の夢が詰まった作品です。
それに加え、これまでは子どもたちのために製作していたアニメを中年男性に向けて製作するというという挑戦的な作品でもあります。
『紅の豚』の見どころ
![マルコ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco020-1024x554.jpeg)
なんといってもポルコの生き様に心を打たれる作品です!
ストーリーが単純明快でわかりやすいところも魅力だと思います。
登場人物も愉快なキャラクターが多く、見終わった時に爽快感がありますので、気分をスカッとさせる、それでいて少しどこか懐かしい感慨に浸ることのできる、おすすめの映画です✨
『紅の豚』の舞台背景
映画の舞台は世界恐慌に揺れる第二次世界大戦前のイタリア、アドリア海。
飛行艇を操る空中海賊とそれに立ち向かう賞金稼ぎの元イタリア空軍パイロットであるポルコ・ロッソ(紅の豚)。
ポルコは自分自身で魔法をかけて豚の姿になったという設定になっており、赤い飛行艇を駆っていることから「紅の豚」と呼ばれています。
ポルコの飛行艇を設計し、ポルコに思いを寄せる女性、フィオ・ピッコロに対して空中海賊の用心棒でアメリカ人のドナルド・カーチスは求婚をします。
ポルコは飛行艇の製造費用を賄うべく自ら掛け金となったフィオの身を守るため、カーチスと飛行艇同士の空中戦による一騎打ちに臨む、というストーリーですが、血生臭い話ではありません。
アニメーションでしか描くことのできない迫力の空中戦は、宮崎駿監督の得意とする分野だったかと想像しますが、男と男の対決を明るく高揚感のあるテンポのいい作品に仕上げています(๑>◡<๑)
『紅の豚』あらすじ
第二次世界大戦後、敏腕飛行艇乗りのポルコは賞金稼ぎを生業としていました。
戦争や人間同士のいざこざを嫌う彼。
ポルコは自らに呪いをかけ豚の姿で生活
ある日ポルコは空賊が女学校の生徒を誘拐したという知らせを聞いて空賊を襲撃。
無事人質を助け出します。
その夜、亡くなった戦友の妻で古い友人のジーナが経営するホテルへ飲みにいきます。
ポルコを警戒するため空賊に雇われたカーチス
飛行艇乗りの彼は、美しいジーナに声をかけます。
カーチスは、空賊の敵でありジーナと親しいポルコを敵視していたのでした。
ポルコが愛機のメンテナンスのためミラノに行く途中、カーチスの襲撃に遭います。
命は助かったものの、愛機は壊れてしまいました。
ミラノに到着したポルコは修理を依頼
男の修理士は皆で払っており、社長の孫である少女フィオが修理を請け負うことになります。
その頃、ポルコの居場所がイタリア空軍にバレたという情報が耳に入ります。
身を守るため、ポルコはフィオと共にミラノから飛び立つことにしました。
庭にいるジーナの元にカーチスが訪れました。
カーチスのプロポーズをあっさり断るジーナ
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彼女は、庭にポルコが現れたら彼と一緒になろうと密かに決心していました。
ポルコはジーナの前を通りますが、庭に降り立つことはなくそのまま過ぎ去ってしまいます。
ポルコとフィオは身を潜めるためのアジトに到着
![空軍](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco003.jpg)
![空軍](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco003.jpg)
しかし待ち構えていたのは空賊連合!
ポルコを捉え飛行艇を破砕しようとする彼らに、フィオが立ちはだかります。
そこへカーチスが現れ、今度はフィオに一目惚れ。
そこで賭けを提案。
ポルコの勝利で飛行艇の修理費をカーチスが持ち、負けたらフィオを嫁にするとの内容。
こうして2人の決闘が行われることになります。
2人は激しい空中戦を繰り広げますが、弾が切れてしまったので殴り合いで決着をつけることにします。
ジーナはイタリア空軍がポルコの元に向かっていると聞き、決闘の会場へと急ぐ
彼女がついたとき、満身創痍になった2人は海に落ちて沈んでしまいました。
しかし、ジーナの声を聞いたポルコが海面に顔を出し決闘に勝利します。
フィオはミラノへ帰ることに
帰り際、ポルコに口づけしたのでした。
そのときポルコの顔が変わっていることにカーチスが気づいたのでした。
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数年後、フィオとジーナは親しくなり、ホテルでたびたび会う仲になりました。
ポルコはあれから姿を眩ませてしまいましたが、ジーナは彼が庭に降り立つ日を待ち続けています。
『紅の豚』名言「飛ばない豚はただの豚だ。」
![飛行艇に乗っているマルコ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco025-1024x554.jpeg)
![飛行艇に乗っているマルコ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco025-1024x554.jpeg)
この台詞を耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか?
ホテル・アドリアーノの女性支配人のジーナへ対してポルコが言った言葉です。
空中海賊と戦う飛行艇乗りの賞金稼ぎは命懸けでもあります。
ジーナは過去に3度、飛行艇乗りの夫を亡くしており、古い馴染みでもあるポルコに「今にローストポークになっちゃうから。私いやよ、そんなお葬式。」と身を案じて話したのでした。
それに対してのこの台詞です。
女性から見れば「男は女を桟橋の金具くらいにしか考えていない。」(ジーナ)と捉えられるかもしれませんが、わたしは自分の信念を貫く姿勢を持つポルコに共感したことを覚えています。
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わたしも命懸けで自分の生きる道を突き進んでみたい。
初めてこの映画を見たのが中学生だった時のわたしにとっては、とても響く台詞でもありました。
中学生、ちょうど大人へのあこがれもあって背伸びをしたくなる年頃でもあったと思います。
宮崎駿監督は常々「子供たちのために映画を作っている。」とおっしゃっていますが、本当に子供のときにこの映画に出会えて幸せでした。
自分を表現するものはなんだろうか、思春期の頃にそう考えたとき、常にはっとさせてくれるのがこの「飛ばない豚はただの豚だ。」でした。
男のカッコよさとロマンが詰まった、自分らしく生きたいすべての人に向けた作品
![ポルコ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco001.jpg)
![ポルコ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco001.jpg)
ジブリ作品のなかでも大人向けといわれている本作
大人の恋愛要素にハードボイルドな空中戦や殴り合いの喧嘩という要素が加わるのですからもうロマンが大渋滞ですよね。
でもただハードボイルドなだけではなく…。
本作には、悪役らしい悪役は一人も出てこない
![マルコとカーチス](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco048-1024x554.jpeg)
![マルコとカーチス](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco048-1024x554.jpeg)
一応ヴィランはカーチスなのですが、彼はマルコ対策に雇われただけであり、後半は私情でマルコを一方的に敵視しています。
![](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2019/12/28650428-EE65-4B19-9DC4-77FB358BC554.jpg)
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そんなカーチスがマルコの相手だったことで、マルコのかっこよさがより引き立っています。
ジーナは出会う男をすべて魅了してしまいますが、マルコもまた女性を虜にしている
![マルコにキスするフィオ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco037-1024x554.jpeg)
![マルコにキスするフィオ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco037-1024x554.jpeg)
まずはジーナ、そしてフィオです。
本作は男性に寄った作品であり、マルコの争いや人間のいざこざを嫌うカッコよさとカーチスとの勝負を中心に描かれています。
でもいずれも、女性なしでは成り立たないストーリーなのです。
![](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2019/12/B44DE280-6912-43BE-BC79-E395B7D27753-1.jpg)
![](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2019/12/B44DE280-6912-43BE-BC79-E395B7D27753-1.jpg)
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一方でフィオは機械機器の知識に長けている変わったおてんば娘。
双方に違った魅力があり、当時にしては珍しい女性の在り方の多様性を感じさせてくれます。
ジーナとフィオの共通点は、「世間から少し外れている」こと
ジーナ
![ジーナ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco027-1024x554.jpeg)
![ジーナ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco027-1024x554.jpeg)
彼女はホテルの経営者であり、一見完璧な女性のように描かれていますが、彼女は飛行艇乗りの夫と3度結婚し、3度死別しています。
そのため、作中でもしきりにマルコの身を案じています。
愛する男性を3回も亡くしたジーナの心の傷は計り知れません。
ですから彼女は昔からよく知る友人にしか心を開いていないのでしょう。 こういったことからジーナは自ら世間を遠ざけているのだと思います。
フィオ
![フィオ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco023-1024x554.jpeg)
![フィオ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco023-1024x554.jpeg)
作中でも驚かれているように、当時では珍しい(というかありえない)女性の飛行機設計技師です。
勝気でタフな性格であり「女のくせに」と言われるようなキャラ。
実際この時代の女性が技術職に就くようなことはまずなく、フィオは異質な立ち位置だと言えます。
2人の女性の心を奪ったマルコもまた、世間の外れ者
![マルコ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco044-1024x554.jpeg)
![マルコ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco044-1024x554.jpeg)
軍隊を退役し自ら豚に姿を変えて賞金稼ぎをするなど、どういった考えからそうなるんだと誰もが思うはずです。
でも、そんな世間を気にしない生き方のマルコだからこそ、2人は惹かれていったのでしょう。
「カッコイイとは、こういうことさ」というキャッチコピーのとおり、彼のカッコよさは自由な生き方をする女性に希望を与えたのです。
宮崎駿監督は本作を「中年男性のための映画」と銘打ってますが、自分が自分らしく生きることを推奨されている現代では幅広い層に響く作品なのではないかと思います。
「カッコいいとはこういうことさ。」
![飛行艇を飛ばすマルコ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco042-1024x554.jpeg)
![飛行艇を飛ばすマルコ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco042-1024x554.jpeg)
この映画のテーマでもあります。
若いときだけではなく、年を重ねていっても自分らしさを表現できる大人でありたい、そう思ったものです。
何かに夢中で取り組んでいる人は素敵だと思います。
それが自己表現であり、人としての魅力につながっています。
何を始める、取り組むにしても年齢は関係ないのだと、わたしは中年と呼ばれる年齢になってからそう思いました。
この感覚はいつまでも忘れたくないなと思います。
人間は身体的に若い時は30年足らずで、それ以外の年齢を生きている時間の方が長いと思いますが、人間としての魅力、深みは後者での生き方、生き様に現れてくるのではないでしょうか。
わたしは自身のことをカッコいいと思ったことはありませんが、いつかは自他ともにカッコいいと認められる人間になりたいと思いました!!
平和へのメッセージ
冒頭にも記載しましたが、紅の豚は空中戦のシーンが描かれています。
宮崎駿監督ならではのアクションシーンは見ている者の心を躍らせます。
ちなみにポルコは劇中で機関銃を搭載した飛行艇に乗っていますが、人を殺すことは一切していません。
また、「ファシストになるくらいなら豚の方がましだ。」という台詞もあります。
世界恐慌への不安が忍び寄る時代が舞台ではありますが、どこかに平和、反戦へのメッセージも込められているのではないかと、これは想像ですがそう思います。
まとめ
この映画のハイライトであるポルコ対カーチスの一騎打ち。
飛行艇の機関銃が両方とも弾切れ、故障となり、最後は海の浅瀬で大勢の見物客が取り巻く中での殴り合いの末、ポルコがKO勝ちし、フィオを解放するという決着を見ます。
![マルコに抱きつくフィオ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco050-1024x554.jpeg)
![マルコに抱きつくフィオ](http://ands-dw.com/wp-content/uploads/2021/05/porco050-1024x554.jpeg)
その後のエンディングに続くシーン、これがまた清々しくて気分が良いのです。
ポルコに好意を寄せるフィオには改めて「かたぎの世界」に戻すようジーナに託し、同じく好意を寄せるジーナにも「すまない、行ってくれ。」と一言を残すポルコ。
少々きざなシーンにも映るかもしれませんが、それが宮崎駿監督の描くポルコなりのカッコよさなのかもしれません。
フィオを連れて飛び立つジーナの飛行艇を眺めた後、ポルコとカーチスは空中戦の情報を嗅ぎ付けたイタリア空軍を撒くために自身の飛行艇へと向かう──。
そして加藤登紀子さんの歌うエンディングテーマ「時には昔の話を」が流れます。
古くからの友人に静かに語り掛けるこの歌が、高揚した気分を少しクールダウンさせてくれます。
1時間32分の割と短めの映画で、その中に詰められた爽快感と心地良さ。
信念を貫く一人の人間(豚)のカッコよさ、魅力を引き出す作りに感動する作品だと思います✨
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